アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

心はどこにあるのだろうと思った。ふと、顔をあげるとサラリーマンが吊革につかまっている。ガタンゴトン、と揺れる電車からは壁しか見えない。突如として現れた日常は少しだけ遠く思えた。

目線をiPhoneに向けるとそこにはその世界があった。灰色に飲み込まれていく。日常から再び画面の中に吸い込まれる。電子文書になっても小説の世界に自分がいるような感覚は変わらなかった。その世界では、人間以外の生き物がほとんど息絶え、ほとんどの人間は火星に住んでおり、人間そっくりのアンドロイドが自由を求めていた。

心はどこにあるんだろうと思った。人間が持つとされる心は一体何なんだろうか、と。

広大な宇宙のほんのかすかな点ほどの地球に住む我々はただの生物でしかない。自分が人間であるから人間は特別であるように感じるが、単なる生物でありいつかは死に絶えていく。他の生物のように。星が生まれて消えていくように。その人間の内部にあるとされる心は本当に特別なものなのだろうか。その世界の人間はどうやらそのように思っている節があった。しかし、人間の仕組みというものはきちんとしたプログラムのようなものが脳にあるのだ。では、アンドロイドは?

少し怖くなった。自分の心が信じられなくなりそうだった。ガタンゴトンと揺れる電車で自分だけ置いてきぼりになっていく。皆が当たり前のように会社に向かっている。

アンドロイドは冷酷だった。そしてあまりにも人間らしさがあった。私はアンドロイドのレイチェルを思った。”自分がアンドロイドだと分かって生きるのはどんな気持ちだろう”。そう考えると寒気がした。私にはわからない。自然に作られたものと、それを再現した人工物の違いが。まるで心は神様がくれたもののようにどこかで感じているのかもしれない。

アンドロイドは、どうやら共感が難しいらしい。誰かがどう思うだろうとか、自分がその立場だったとしたら同じように思うだとか、そういったことを考えられない様子だった。よくある”他人の嫌がることはよしましょう”のようなことが不可能だった。

私には人工物より自然に作られたものが尊いと感じるこの気持ちがわからない。完全に人間を再現したらそれは人間じゃないのか。何が違うんだ。それでも、アンドロイドの気持ちを考えるととてつもなくつらい気持ちに襲われる。

きっと我々は心が”作られたもの”だと思いたくないのだ。心とは自然に湧き上がるような絶対不可侵の操れないものであり、だからこそ大切なものなのだ。それが、作られるようなことがあってはならない。作られてしまったらそれは人を操れることになってしまう。そんなことがあってはならない。人間の自由が奪われてしまう。きっとアンドロイドもそれがわかっていた。

“感じる”という安心感が感じられないアンドロイドの胸の内はどんな様子なのだろう。心がなかったことがないからわからない。心がないことはひどく恐ろしい。死んだときどうなるのかと考えるのと似ている。

電車を降りた。人間らしく人間でいるため今日も働くか、と会社へと歩き出した。雨が降っていた。ああ、雨は嫌だなと思い傘をさし、ふとアンドロイドのことを思い、涙した。この涙一滴は私の心から流れ出た一滴のような気がした。

私の心はここにあった。



そして、アンドロイドが電気羊の夢を見るかどうかはわからない。アンドロイドは私が涙することもわからないのであろう。例えアンドロイドだったとしたらどう感じるのだろうかと考えてつらくなっても、アンドロイド自身がそれをしない。皮肉にも、”アンドロイドだったとしたらそれはつらかろう”と感じることこそが、アンドロイドと人間の違いを浮き彫りにしていた。

しかし、本当にそうだろうか?本当にアンドロイドは共感できないのだろうか。私は、アンドロイドに電気羊の夢を見て欲しかった。

私がアンドロイドだったら電気羊の夢を見たい。私の心がそう言っていた。

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ohanachann

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